蒼夏の螺旋

   “好きなものは譲れない”
 


昔から女子供が好きなものとして
イモ タコ ナンキンが挙げられておりますが、

 「芋とカボチャは、
  甘いからそんな言われようなんだろなって
  何となく判るけどよ。」

いかにも煮物の材料だからとか、酒の肴に向かないとか、
そんなしょむない理由から、
世の呑んべえたちが勝手に見下げたんだろうけれど。

 「タコは酒の肴にも向いてるのになぁ。」

酢の物とか刺し身とか、
寿司ネタにもあるし、おでんの具でも人気あるじゃんかと。
某有名企業主催、合同クリスマスキャンペーンの
都内販促イベントへ向けて、
発注や手配あれこれへと奔走中、総括担当のロロノア係長さんへ、
それは素朴な疑問をぶつけたのは、
奥方こと同居人のルフィさんであり。
急に寒くなって来た今日この頃、
平日のしかも昼からとか、
実に変則的な休みとなることの多い旦那様と二人、
行きつけのスーパーまでのお買い物と洒落込んでいて。
そろそろ本格的に鍋でもしよっかと、鮮魚のコーナーなぞ物色しつつ、
まとまりの悪い髪、
今日はアーガイル柄のニット帽子にくるんと収めた奥方が、
ふと思いついたらしいことを口にした。
広々とした店内は、
屋内ということで暖系の照明で隅々まで照らされていて、
しかも暖房も効いていて、外より暖かなものだから、
いやあ温かいねぇと和んでしまい、
ともすりゃ 温かいものへのという見繕いを
忘れかかってしまうほど。
そんな中を、肉の大版パックに冷凍食品あれこれ、
大きくて瑞々しいハクサイや大根、白ネギや小松菜、
菓子パンや食パン、お菓子のファミリーパックなどなどで
2つほどのカゴが既に埋まりつつあるカートを
ベビーカートのように大事そうに押しつつ、
食いしん坊な奥方が、酒の肴にも詳しくなりつつあるのへ
内心何とも言えぬほこほこした感慨に耽りつつ、

 「まあ、今でこそ酢じめや刺し身で食えっけど、
  その昔は 煮物でしか食えなかったからじゃね?」

マグロのトロなんてのも、
江戸の昔は“ねこまたぎ”なんて言ってサ、
脂っこくて猫も食わないって扱い、
惜しげもなく捨てられてたらしいしと付け足せば、

 「うあ、それって勿体ねぇ〜。」

途端に幼いお顔の眉をしかめて、
ルフィが目一杯残念そうな顔をする。

 「俺はどっちかって言うと、
  味の濃い赤身のほが好きだけどよ。」

そんでも炙りとかにしたら香ばしくって美味いのになぁと、
無残にも捨てられたトロを思ってか、
ふわふかな頬を自分の両手で挟むようにして
残念残念と険しいお顔になる始末で。

 「よし、今夜は ねぎま鍋だ。」

張りのいいネギもあったことだし、
あとは鍋にいいマグロの切り身を探そうと、
商品ケースを眺め回したその視線の先に、

 「…………お。」

ほんの寸前に話題にしていたタコを見つけて、
ついつい手に取る奥方で。

 「関西の人んチにはタコ焼き器が大抵あるんだと。」
 「らしいな。」
 「小学生でも
  あのくるんて返して丸めるの、上手に出来るんだって。」
 「……うらやましいのか?」

だってさ、たまに無性に喰いたくなるんだタコヤキって、と。
マグロより先、そのタコのパックもカゴへと追加し、

 「タコ焼きはタコがないと作れねぇもんな。
  関西の人はストックしてんのかな。」

 「他で代用してんじゃね?」

ちなみに、関西の各家庭では
冷凍うどんを必ずストックしとられます。(昔のカト吉…)
そぞろ歩きペースで進みつつ、ゾロが冷温ケースの中に指差したのが、
海鮮ミックスと記された、イカとエビの小口切りの冷凍パックだったが、

 「いやいやいやいや、タコ焼きは やっぱタコだって。」

そこは譲れませんと、ルフィが胸の前へこぶしを作る。

 「俺もやってみたことあるけど、」

あのプリプリの歯ごたえや、
咬みしめたときの じゅわって出てくる味わいの深みが違うから、
イカやエビじゃあ物足らんし、
ウインナーもチャーシューの角切りもイマイチ、と。
うんうんなんて頷きもって、
こちらも感慨深いお顔で言い出す彼であり。

 ちょっと待て、ウチにタコ焼き器なんてあったか?

 PC教室の集いで使うってレンタルしたの、
 返す前にもう一回ってウチで使ったんだ

実証したから間違いないと、
薄いお胸をえいと張り、

 「だからウチでは、冷食のストックを欠かせないんだな。」

なんて言って、
いつぞやはゾロもご相伴にあずかったタコ焼きもカゴへと投入され。

 「あ。鍋用マグロ見つけvv」

ツミレも入れような? えのきも忘れんな?と、
お互いのお好みも補充して。
冬には冬の御馳走の買い出し、それは楽しげに進める二人であり。

 “まあ、料理は慣れだって言うが。”

タコじゃなきゃダメだなんてこだわる辺りは、
あの、料理上手だという
グル眉のお母様の影響だったらちょっと癪だと、
思わないでもないご亭主だったらしいです。

 「? どした? ゾロ。」
 「いんや 何でもねぇ。」

誤魔化すように、小さな奥方の肩へおでこを乗っけて、
そのままウリウリ懐いて見せて。

 もうもう、しょーがねぇなー。//////////

お鍋にどうぞと売り出されていた北国の銘酒とやら、
ルフィさんがカゴに追加してくれたのは、
想いもよらないボーナスポイントだったそうで、


  ようよう暖まってね、お二人さんvv





     〜Fine〜  14.11.19.


  *ちなみに、ルフィさんのタコ焼きへの至高の愛は、
   別のフードコートにお店を出してる
   タコ焼き屋のお兄さんからの受け売りだそうです。(笑)
   関東では“銀だこ”の一人勝ちですか?
   あれもいいけど、私のご贔屓の店とかありませんか?
   ちなみに、明太子とかベーコンチーズを入れてるのも
   私は ちょっとなぁ…と思うクチです。
   いっそ もんじゃとか食べればいいじゃな…(強制終了)


ご感想はこちらvv**めるふぉvv

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